2010年9月1日水曜日

取って置きのオーストラリア

 これらの思案の末、賭けるべき馬と賭ける金額を決めるのである。が、競馬経験のない筆者のように、パドックで馬を見て、気力、体力を測り、または姓名判断よろしく馬の名前で賭ける馬を選ぶという方法だってある。要するに賭けを楽しめば良いのだ。
 レースで走る馬を見ているうちに気が付いたことがある。それは馬の一団のやや後方を走る車の存在だった。どうやらレースコースの内側に道路が造ってあるらしい。
「あの付いていく車は何をしているのかな」
と聞いてみた。
「えっ、あの車、あれは救急車よ」
と、直ぐに答えが返ってきた。
 そうだった。競馬というのは危険なものなのだ。何人ものジョッキーが練習中に命を落としている。ましてレースの最中は、皆他の馬のことなど考えずに走ることに専念している。前や横の馬との接触だってあるだろうし、落馬の危険度は高いのだろう。
 レースの際の馬の速度はとても速い。70キロくらいかと前に書いたが、そのような速度で走っている馬から落ちたらそれだけで大怪我をする可能性が高い。まして、後にも馬が全速力で走っているのだ。後続の馬に蹴られることは十分考えられる。
 馬の脚には蹄鉄という馬蹄形の鉄の板が打ち付けられている。鉄で武装した足で蹴られたら、場所によっては命にかかわる。レースを追いかけるように走る救急車の存在が競馬の危険性を改めて思い出させた。
 馬というものは普通は人を蹴ったりしない。前に人が倒れていればそれを飛び越える。だが、レースの最中という興奮の中では避けきれないこともあると思わなければならない。
 第六レース、パースカップがスタートした。テーブルの上のテレビ画面には団子になって走り出す馬の一団が映っている。
「各馬ゲートインから一斉にスタート。先頭は3番の……」
という実況中継の英語版が聞こえてくる。言葉は違うが内容と抑揚は日本のものとそっくりだ。
 さして時間がかからずホームストレッチに入り、目の前を駆け抜けていく。思わずゴールの前を先頭で走り抜けるのはどの馬か、と目を凝らすが、次の瞬間、このレースは3,200メートルだからもう一周するんだと気がつく。
 このレース、筆者が勘で選んだ一番が終始先頭を走っていたが、最後の直線で刺しこんで来たのに抜かれてしまった。
 優勝馬は十一番のKing Canute、新聞の予想をしていた三人の競馬評論家の中でたった一人が、それも四番目に選んだ馬だった。それだけに優勝したジョッキーはパドック中央に戻って拳を何度も天に突き上げていた。
 今回のレースのソポンサーはヨーロッパの自動車メーカーBMWだ。競馬場の中央にはBMWの主要な車種が展示されているし、勿論第六レースの勝者にトロフィーを手渡すのはBMWの人だ。レースの速さと比べて、この表彰式自体は何人もの人が挨拶をするので時間がかかり、やや退屈だった。
 メインレースが終わる午後3時過ぎになると観客にも十分酒が回って様相が変わってくる。テントの前でダンスに興ずるカップルがいるかと思えば、柵の際にひっくり返っている酔っ払いも出現する。
 アラブの衣装をつけたもの、頭に空き缶で出来た帽子をかぶるもの、さらにはさすが英国の伝統、スコットランドの衣装を着た男達もいる。シェリーが写真をとろうとしたらそのスコットランド男性二名は、顔を見合わせにっこり笑ったかと思うと向こうを向いてしまった。あれ、と思った瞬間彼らはスカート状のキルトを前かがみになりながら跳ね上げた。当然のことだがむくつけき尻が丸見えとなった。この写真、しっかり撮れたのだがやはり本には載せにくいので引き出しの奥にしまってある。
 台の上に乗ってシャボン玉を飛ばしながら音楽に合わせて踊っている男女もいた。
 最初は紳士、淑女の社交場、最後はお祭り騒ぎとなるこのパースカップ、読者諸氏も一度経験してみたら如何だろうか。

告:長らくお楽しみいただいた連載も本日をもってしばらく中断します。この所出版に向けての仕事が忙しくかつ集中しなければならないので。

2010年8月31日火曜日

取って置きのオーストラリア

 さてゲートインが終わると間をおかずにレースがスタートする。走るために出来た馬といわれるサラブレッドはさすがに速い。筆者が想像していたのとはけた違いに速い。時速70キロくらいは出ているのではないだろうか。見る見るコーナーを回りホームストレッチに入ってくる。そのときに聞こえる足音は勿論『パカパカ』などというのんびりしたものではない。「どぅどどど、どぅどどど」というような、重く、震動が見ているものの腹に響くような音だ。
 その昔、日本の戦国の世に、武田の騎馬軍団が他国に恐れられていたというのがよく分かる。いかに日本の当時の馬が小さめだったとはいえ、土を巻き上げながら、地響きとともに猛スピードで迫る騎馬軍団を槍と刀を持っているとはいえ迎える軍兵の恐怖はどれほどだったか。恐らく、直ぐにも逃げ出したくなったのではないだろうか。
 さて、普通のレースは1,400から1,800メートルを走るのだが、第六レースのパースカップは何と3,200メートルという長距離レースだ。
 皆は一般誌や専門誌のデータをもとにどの馬が一着になるかを予想している。参照しているデータは主に、その馬の戦歴(特に距離との関係)、ジョッキー、ハンディキャップ(重さ)、ゲート番号(内枠の方が一般的には有利)などである。
 だが必ずしも一着と予想した馬に賭けると決まったわけではない。賭けで重要なのは勝って、且つ儲けることなのだ。そこで重要になるのは賭け率データだ。皆が一着と予想する馬、つまり本命馬に賭けても殆ど儲からない。驚くほどの儲けが出るのは一着になるなんて予想もしない馬に賭けていた場合だ。そこで皆頭をひねる。本命以外が一着になる可能性を考えるのだ。
…3,200メートルは短距離走ではない、いわばマラソンだ。だからポイントは持久力と最後の100メートルで加速できるかどうかだ…
…全体のペースが遅めに展開すればこの馬が…
…あのコーナーで先頭になれればこの馬が逃げきれるのでは…
…今度のジョッキーならこの馬を上手くリードして…
 きりがないほど考えることがあるのである。
 もっと凄いのは、勝つ確立は低いけど賭け率から見て万一勝ったら凄い儲けだ。念のために少し買って置こうか、というのもある。

2010年8月30日月曜日

取って置きのオーストラリア

 パドックの向こうからジョッキーが入ってきた。いや,ジョッキーだけではない。
「ジョッキーと一緒に入ってきたのは馬主じゃないかな」
一緒に見に来ていたシェリーに聞いてみた。
「そうよ、オーナーよ。オーナーはこの瞬間が楽しみなんですって。もち馬が優勝すれば勿論馬と一緒に歩けるし、写真も撮って貰えるんだけど、それは滅多にないことだからね」
 自分の馬を見つけるとジョッキーは軽やかに馬にまたがった。それにしてもジョッキーの体は小さい。体重が50キロくらいというのだから日本人としても小さいのだが、この巨漢がごろごろというオーストラリアで見るジョッキーは、それはそれは小さく見えた。
 ふと見れば、鐙の位置が高い。ジョッキーは膝を鋭角というよりヘアピンのように曲げて鐙に足をかけている。そうなのだ、馬が走っている間中ジョッキーは尻を浮かせたままでいる。そのために鐙は極端に高い位置にセットされている。
 パドックの真中には三頭の白馬が並んでいる。レースコースの係りが乗っているもので、出走場をエスコートしてコースに出すのが仕事のように見えた。
 やがて一番の番号をつけた馬から順にコースに出る。そしてコースに出た途端猛烈な速度で走り出す。向かうのは反対側にある白い出走ゲートだ。
 こんな展開のレースだが一つだけは違った。九レースの中の最大3200メートルの第六レース、すなわちパースカップの場合である。
 まず女子高校生と思しき一団がオーストラリア国旗を掲げて行進する。そしてパドックの中に整列すると、今度はパースカップにでるジョッキーの紹介がある。一人ずつジョッキーが中央に呼ばれてでてくる間に、過去の成績などが読み上げられていく。ジョッキーが全員整列すると今度は赤いドレスの女性が現れた。そして、
「ここでナショナルアンサム(国家)を歌います」
とアナウンスがあり、その女性が高らかに国家を歌い始めた。すると私の脇や、後から歌声が聞こえてきた。どうやら大半の人は国家を一緒に歌っているようだ。国家斉唱になると口だけを空ける人が多い日本とは異なっている。
 ここでこのパースカップに参加した日本人ジョッキーに付いて紹介しておこう。パースの新聞は、「彼の参加でパースカップはインターナショナルレースになった」と報じた。
 そのジョッキーの名前はTakahide Ikenushi。漢字でどのように表記するのか知らないのでローマ字で書いておく。日本のジョッキー養成機関の狭き門を嫌ってオーストラリアに渡りジョッキーになった彼は目下好成績を残して活躍中の25歳だ。
 同じ日本人ということもあり、レース前に却って迷惑かとも思ったがパドックで声をかけた。勿論一面識のない彼には誰が声をかけたかなど分からない。レース前の気合の入ったときだから面識のある人間でも認識できないのではないだろうか。彼はこの日二つのレースに出場した。その一つがメインレースのパースカップだ。それだけで彼がオーストラリアのレース界での実力ジョッキーであることが理解できよう。

2010年8月29日日曜日

取って置きのオーストラリア

 一応カードの種類を列挙しておこう。
Win & Place: 説明済み
Quinella:  二頭の馬を選び、その二頭が一着と二着(順不同)になったら勝ち
Exacta:   一着と二着の馬を予想、その通りだったら勝ち
Trifecta:   一、二,三着の馬を予想、その通りだったら勝ち
Quartet:   一、二,三、四着の馬を予想、その通りだったら勝ち
Mystery Bets: コンピューターが一、二,三着を選び、それが当たったら勝ち
このような賭け方のシステムは日本のものと違うのではないだろうか。
 さて賭け金だが、ブッキーといわれる胴元のところでは最低が20ドルと高いが、カードでの賭けの場合は最低50セントから受け付けている。でも、掛け金の欄の数字は一ドルが最低だったはず、50セントの時はどうするのか。一休さんのとんち問答みたいだが、50セントをかけるときは賭け金の欄をブランクにしておくのである。
 レースが近づいてくるとレストランの席も華やかな女性達に彩られてくる。隣のテーブルを例に挙げれば、胸の大きくあいた純白のミニドレスを着たマリリンモンロウ張りのお姉さんとワインレッドのロングドレスのお姉さんがこれでもかという具合に女性美とフェロモンを発散していた。
 目の前のパドックに馬が見え始めたので様子を見に行くことにした。レストランの一番下の段にガラスのドアが二つあってそこから外に出られるようになっている。ドアの所には白い制服を着たお兄さんが立っていて、間違って入ってくる人がないようにチェックしている。それだけではなく我々の出入りの時には恭しくドアの開閉をしてくれる。金持ちっていうものも良いもんだな、と感じながらパドックの柵まできた。
 パドックの中では馬丁に轡をとられた次のレースの出走馬が歩いている。競走馬としてのサラブレッドは走ることだけを教えられた馬だ。いわゆる乗馬用の調教を受けていない。そのためか歩き方も荒々しいものが多い。頭を激しく上下に振るもの、「ブォルルォン、ブルフォウン」と荒い鼻息で気分の高まりを示すもの、体を斜にして馬丁と押し合いをしながら歩くもの、はては背中を丸めて飛び跳ねながら行くものまでさすが勝負の世界に生きる馬だと感じさせるものばかりだ。
 馬の体と言うものはかくも美しいものか。贅肉など一片もない筋肉質の体はまるで解剖学の図を見るが如く一つ一つの筋肉の様子を見せている。その均整の取れた体はボディビルに象徴されるような筋肉トレーニングの結果できた体とは異質のものだ。走る、という自然の動きによって鍛えられた筋肉の発達はそのバランスという点で典型的人為である筋トレがつくるアンバランスとは異なるのだ。

2010年8月28日土曜日

取って置きのオーストラリア

 もう一つあった。それはベッティング(賭け)の申込み用紙と記入用の鉛筆だ。そう、なんとテーブルで選んだ馬にどれだけかけるかを決め、用紙に記入する所までできると言う至れり尽せりのサービスになっている。
 ここで賭け方を説明しよう。全部で六種類のカードがあるのだが、シンプルな方の三種類を最初に説明する。
 一番普通なのが「WIN AND PLACE」だ。まず左端のMeetingの欄を見る。左側に上から、S、M、P、C…と書いてあるのはレースコースの頭文字だ。Sはシドニー、Mはメルボルン、PはパースだからPに鉛筆でマーキングする。そう、マークシート方式だ。右側には上から、R, T, Dと書いてある。Rは競馬、Tはトロット、そしてDはドッグレースだからRにマーキングする。
 次の欄にはRaceと書いてあり、1から10までの数字が書いてある。これはレース番号だから、かけるべきレースの番号にマーキングをする。
 次の欄に移ろう。ここにはSelectionとあり、1から24までの数字が書いてある。選んだ馬に対応する番号にマーキングすれば良い。
 次の欄の左側はWin、すなわち一着になることにどれだけ賭けるかを示すところである。1から順に大きくなる数字にマーキングすればその額が賭けた金額となる。
 右側はPlace、これは選んだ馬が一着、二着,三着のいずれかに入ったら勝ちという賭け方の枠だ。やはり掛け金に対応する数字にマーキングをすればよい。
 このカードをレストランの一番奥のカウンターに持っていき、備え付けの読み取り機械に差し込むと掛け金の合計額が表示されるとみえ、係りのお姉さんがxxxドルxxxセントですと言ってくれる。その金額を支払えば賭けの手続きは終わりだ。機械から取り出したカードを見ると、裏側に賭けの内容が印字されている。
 では予想が当たってPlaceに選んでいた馬が二着になったとしよう。勿論それに応じた賞金が手に入るのだがやり方はいたって簡単だ。例のカードを持っていき、先ほどの機械に入れれば良いだけだ。お姉さんがその場で賞金を渡してくれる。
 次のレースに賭けるためのカードをマーキングして持っていった場合は、当たりカードと一緒に機械に入れれば良い。支払いと払い戻しを計算した上で過不足をお姉さんが知らせてくれる。なんとも楽なシステムになっているのだ。
 賭けカードには他の種類もある。一、二着がそれぞれ選んだ馬になった場合に勝ちになるものから四着までがぴたりと当たらなければならないものまである。が、皆が記入しているのは紹介した「Win & Place」が殆どだ。

2010年8月27日金曜日

取って置きのオーストラリア

Main Course
Char-grilled chicken and chorizo braised with cider
Lamb kifta cooked with tomatoes and raisins
Snapper fillets in champagne buerre blanc
Seasonal vegetables with lemon olive oil
Eggplant and potato curry
Fragrant Jasmine rice
Minted new potatoes

Dessert
Pavlova with vanilla chantilly
Strawberry cheese cake
Espresso mousse cake
Chocolate mud cake
Fresh fruit compotes
Lemon curd tart
Crème brulee

Selected Australian cheese, semi dried fruits and nuts
Platter of seasonal fruits and berries

Beverage
Lindemans Bin 65 Chardonnay
Lindemans Bin 95 Sauvignon Blanc
Lindemans Bin 45 Cabernet Sauvignon
Lindemans Bin 50 Shiraz

Great Western Brut
Great Western Imperial

Emu Bitter, Swan Draught, XXXX Gold
Hahn Premium Light

Soft Drinks

 勿論飲み放題であることは言うまでもない。
 さて、メニュー以外にテーブルに備え付けられているものがある。ふ、ふ、ふーむ。実は各テーブルにはテレビが一台ずつ載っているのだ。映るのは次のレースの出走場データと賭け率、レース後の結果と配当金の額、レース中の様子、それにパドックを利用して行われるアトラクションの中継だ。

2010年8月26日木曜日

取って置きのオーストラリア

 黒っぽいガラス張りのこのレストランからはレースコースの全てが見渡せる。パドックは直ぐ目の前、その先はホームストレッチのゴールのちょっと手前だ。が、外からはレストラン内部は見えない。この黒っぽいガラス、日本の高級車の窓などに使われているものと同じなのではないだろうか。
 席についたら直ぐに落ち着いた感じの中年の女性マネージャーが挨拶と説明に来た。
「今日は有難うございます。現在11時半くらいですからそろそろブフェの方の準備ができると思います。最終レースが5時過ぎですからゆっくりデザートまでお楽しみいただけますように。メニューをぜひご覧下さい」
といった感じだ。
 その後直ぐにウェイターがドリンクの注文をとりに来た。ヘザーはシャンペン、残りはビールを頼んだ。ここでメニューを紹介しておこう。

Antipasto
Tuna, salmon and avocado sushi, soy and wasabi
Potato, parsley and goats cheese frittata
Thai noodle salad with chili and lime
Smoked salmon, capers and lemon
King prawns with cumin rouille
Cured meats with Escalivada
Roast veal loin with tomato
Marinated fetta and olives
Smoked ham with pickles

Salad
Young cos leaves, crispy bacon and anchovy garlic dressing
Potato and green bean salad, roast garlic dressing
Rocket and witlof salad, orange vinaigrette
Tomato, basil and red onion salad

Roast
Slow cooked beef with rich red wine jus