オオヤマツミ始め、村長たちも佐久夜の決意とその理由を理解した。そして誰も反対できなかった。オオヤマツミが沈んだ声で告げた。
「先ほど決めた生贄は取りやめ、我が娘佐久夜を生贄として明日山に送る。皆それで良いな」
誰もが黙ってうなずいた。実際のところ自分の娘を生贄にさせたい親はいない。ここに集まった村長たちもそれが課せられた使命と感じて嫌がる娘を連れてきただけに、オオヤマツミが娘を生贄に出すという言葉にほっと安堵の胸をなでおろすと同時にオオヤマツミの心情を思い、声を発することが出来なかったのである。
返事がないのを悔しくも、恨めしくも感じながらオオヤマツミは心を決めた。
「生贄のための輿の用意は出来ているか」
「は、既に出来上がっておりまする」
「ならば、明朝皆で佐久夜を見送ろうぞ」
オオヤマツミは静かに言うと後ろを向いた。肩が震えている。涙が目からあふれ、頬を伝い、床に落ちた。村長たちはオオヤマツミの涙にもらい泣きをし、それぞれ娘たちを抱きかかえるようにしてそっと部屋から退出した。
皆がいなくなるとオオヤマツミは佐久夜のほうに向き直った。
「佐久夜、これでよいのだな、本当に」
声が父親のものに戻っていた。
「はい、十九年にわたりお世話になりました。ホアカリ様、いやアテルヒの神の子を宿すこともできました。これは女子としての幸せだと思います。また、苦しんでいる民のために山鎮めに参れるのはオオヤマツミの娘としてのこれも幸せと思います。佐久夜は決して悲しんではおりません。お父様には幾久しくお元気で…」
佐久夜の目にも涙があふれていた。そして二人はひしと抱き合った。後は静寂の中に二人の嗚咽だけが低く流れていた。
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