さて、その位置で静止すること約30秒、身体が水温になれてきた。そこで思い切って一気に肩まで沈めた。冷水が体を押してくるような感じだ。だが息苦しさも胸の苦しさもない。これなら大丈夫と確信してプールの中央に向かって泳ぎだした。
そうしたら一旦諦めたと思われたフレッドも水に入った。アンドリューは泳ぐだけではなく、プールに流れ落ちる滝のような部分に行って岩に這い登り、水に打たれている。そして、
「ここの水は温かいんだ」
と言った。
暖かいと聞いてすぐ温泉を思い浮かべたが、火山があるわけでもなく、熱源としての白亜紀の花崗岩があるわけでもない。熱源のないところに温泉は成立しないはずだ。で、温かい水を観察した。すると水は地表からではなく、上部の塊状の地層と下部の層状の地層との間から出ていることが分かった。恐らく地表から染み込んだ暖かい水が地層の境界を通って崖にまで流れてきているのだろう。
実際にその水に触れてみたが暖かかった。そのときセイジが岩場から飛び込んだ。この元気さは驚異的である。
アンドリューによればこのプールの水温は14度、カリジニで一番冷たい水だとのことだ。井戸水よりも低温なのだから心臓の弱い人は入らないほうが良いだろう。
さて、頭上のルックアウトから見下ろしている人たちにウェイブをしながらDales Gorgeを遡り始めた。谷底は比較的ひろく、紙の木(白樺の一種?)がそこかしこに生えている。周りの地層は板状の頁岩、直角の角を持つテーブル状のものが多い。
アンドリューが寄ってきて聞いた。
「ジオロジストなんだって。一度聞いてみたかったんだが何故ここの岩はこんな割れ方をするのかなぁ」
「これは岩石として固化してからうけた構造的な力によって出来たものだと思うよ。ジョイントシステムと言うんだ。その大型版が断層と呼ばれるものさ。この割れ目に沿って浸食が起こるんだ。だからゴージが直角に交わってるのも原因はジョイントシステムだよ」
「そうか、今までどうしてこうなるかと疑問に思っててさ、一度ジオロジストに聞いてみたかったんだ」
「岩石の色だって意味があるんだよ。一般に黒っぽいのは酸素の少ない環境、白や灰色なんてのは酸素に富んだ環境で出来たことをしめすんだ。地層の色、割れ方、積み重なり方などから出来た時の環境が分かるんだよ」
地質談義をしながら左手の崖に近づく。
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