2010年8月25日水曜日

取って置きのオーストラリア

 日本の競馬がギャンブルを目的としたある性格の人達が集まる所であるのに対して、此処でのホースレース、特にパースカップなどの大イベントはジェントルマンとレディ達の社交場となっている。勿論当地でもジェントルマンには到底見えない人が混じってはいるが。
屋根だけで壁のない建物があった。長い列ができるのではなく中心部からそれこそ十重二十重に物凄く多人数の人か囲んでいる。
「あれは何だろうか」
と聞くと、
「お酒を売っているのよ」
とシェリーから返事が来た。
 次の建物はもっとでかかった。レースコースに近い三方向にはやはり壁がない。5メートルおきくらいに電光板があり、一段高い所にちょっと感じの違ったお兄さんやおじさんが立っている。そしてその前には二三十人の男達が群がっている。
 その時、
「ここでは写真を撮らないほうが良いからね」
とヘザーが耳打ちした。
「えっ」
「写真を撮ると怒ってくるかも知れないから」
さらに小さな声で、さらに耳元でヘザーが囁いた。
 この場景、この注意、そうだ、こればブッキーと呼ばれる独立系の賭けの胴元に違いない。その種のビジネスをするちょっとこわもての人達の戦場とも言うべきやや殺気立った雰囲気に、思わずカメラを手で包みこむように持ちかえていた。
 人ごみを掻き分けるようにしてブッキーのエリアを脱出して次なるメインビルに入った。エスカレーターで二階にあがると、そこにも溢れんばかりの人、人、人。丸テーブルがずらりと並ぶ中、皆が座っている椅子と椅子の間をすり抜けるようにして奥へ奥へと進む。そしてようやく人が少なくなったと思ったとき目の前に柵で区画された一画が現れた。入り口には係員がいて予約客以外を入れないように見張っている。
「予約してあったホスキングだが…」
と黒い制服の係りの女性に言うと、
「ウェル、うーむ」
と言いながらブッキングノートを指でなぞる。そしてホスキングの名前を見つけるや、
「オーケー、ついて来て下さい」
と言って歩き始めた。
 ブフェランチの用意が進んでいるため三箇所のコーナーからは食欲を刺激するような匂いが漂ってきている。大きな10人掛けくらいの円卓がいくつも並んでいて既に半分くらいには人が座っていた。
 我々の席はその一角を出たレースコースに面したレストラン部にあった。観客席に対応する階段部分を五段に改造し、それぞれに4人掛けから6人掛けのテーブルを配している。一列に七テーブルが並べられているから百数十人が着席できる。我々は上から二段目、つまりかなり高い位置のテーブルに案内された。前後のテーブルには6人ずつが座っている。同じサイズのテーブルを四人で使う我々はラッキーなようだ。

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